住宅価格を予測して買い続けたZillow。予測誤差が在庫リスクに変わった
米不動産大手Zillow Groupは、住宅価格を予測するアルゴリズムをもとに自社で住宅を買い取り再販する「Zillow Offers」事業を展開していたが、2021年11月に撤退を発表した。同年第3四半期には住宅在庫について304.4百万ドルの評価損を計上し、従業員の約25%削減も見込むとされた。

何が起きたか
Zillow Groupは、米国で不動産情報サービスを運営する企業です。2018年に開始した「Zillow Offers」は、いわゆる「iBuying」と呼ばれる事業でした。Zillowがデータ分析や独自アルゴリズム、住宅ごとの評価などを使って買い取り価格を決め、売り手から直接住宅を買い取り、簡単なリフォームを行ったうえで再販売するというものです。従来、住宅売却には仲介業者を介した時間のかかるプロセスが必要でしたが、Zillow Offersは、売り手に対して「早く、確実に」現金化できる選択肢を提供することを狙っていました。
2021年11月2日、Zillow GroupはZillow Offers事業の縮小・撤退を発表しました。同時に提出されたSEC 10-Q(四半期報告書)によると、2021年第3四半期に、Zillow Offersが保有する住宅在庫について304.4百万ドル(約3億400万ドル)の評価損(write-down)を計上しています。これは、その四半期に購入した住宅の多くが、当時の想定よりも低い価格でしか売却できないと見込まれたためです。さらに、2021年9月30日時点で購入契約済みだった住宅に関連して、第4四半期に2億4,000万〜2億6,500万ドルの追加費用を計上する見込みだと発表しました。
CEOのRich Bartonは、撤退の理由について、住宅価格の予測における不確実性が想定を大きく上回り、この事業を継続・拡大し続けることが、収益とバランスシートに過度な変動をもたらすためだと説明しました。SEC提出資料では、この判断の背景として「価格モデルの誤差」に加えて、「住宅市場の急激な変化、感染症の流行、労働力・供給網のひっ迫」といったオペレーション上の課題も同時に存在していたことが記載されています。リフォームや引き渡し(クロージング)に関する対応能力の制約(capacity constraints)も、同四半期の収益が計画を下回った要因として挙げられています。この事業縮小に伴い、Zillowは全従業員の約25%にあたる人員削減を見込むと発表しました。
なお、Zillow Group自体がこの事業撤退によって倒産したわけではありません。2021年第3四半期のSEC提出資料では、Zillow Offersを縮小・終了する方針が示される一方、不動産情報サービス(IMTセグメント)や住宅ローン事業(Mortgagesセグメント)など、他の事業は継続していました。
判断の分かれ目
「予測の精度」だけでなく、予測が外れたときにどれだけ在庫・資金・オペレーションを抱える構造になっているかを、事業拡大の判断に含めていたか。
Zillow Offersは、住宅価格を予測するアルゴリズムをもとに、実際に自社の資金で住宅を買い取り、在庫として保有してから再販売するというビジネスモデルでした。この構造のもとでは、予測が多少外れること自体よりも、外れた予測にもとづいて買い取った住宅を、どれだけの規模で・どれだけの期間抱え続けることになるかという点が、リスクの大きさを左右します。事業を拡大するほど、保有する住宅在庫の規模も、予測誤差が生む損失の規模も、同時に拡大します。
なぜ、「住宅価格の予測が外れた」だけでは足りないのか
この事例を、
「住宅価格の予測が外れて失敗した」
だけで説明すると、次の判断には活かしにくくなります。
まず、Zillow自身の説明でも、原因は予測モデルの精度だけに限定されていません。リフォームや引き渡しの対応能力(capacity constraints)、住宅市場の急激な変化や労働力・供給網のひっ迫といったオペレーション面の課題も同時に存在していたことが、SEC提出資料に明記されています。住宅価格の変動を読み切れなかったことと、リフォーム・引き渡しの処理能力が事業の拡大ペースに追いついていなかったことは、別の問題です。
さらに重要なのは、iBuyingという事業モデルそのものの構造です。この事業では、住宅価格を予測するという情報面の判断と、その予測にもとづいて実際に自社の資金で住宅を買い取り、再販売するまで在庫として保有するという資金・オペレーション面の判断が、一体になっています。予測と実際の市場とのずれが大きくなり、住宅の取得価格が将来の売却価格の見込みを上回れば、保有在庫の評価損として財務面に表れることがあります。実際、Zillowは2021年第3四半期に、取得価格が売却費用控除後の将来売却価格の見込みを上回った住宅在庫について、304.4百万ドルの評価損を計上しました。事業の規模を拡大するということは、この予測誤差が生み出しうる損失の規模も同時に拡大させるということです。CEOの説明にある「事業の継続・拡大が、収益とバランスシートに過度な変動をもたらす」という表現は、まさにこの構造を指しています。

つまりこの事例が示しているのは、不確実性を伴う予測にもとづいて意思決定を行う事業では、「予測がどれだけ当たるか」と同じくらい、「予測が外れたときに、その誤差をどれだけの規模で・どのような形で抱え込む構造になっているか」を見ておく必要があるということです。
今後に活かすチェックポイント
- 予測の精度だけでなく、予測が外れた場合に抱える資産・在庫の規模を確認する
予測にもとづいて意思決定する事業では、外れた場合にどれだけの規模の資産・在庫を抱えることになるかを、拡大の判断とあわせて確認する。 - 情報面の予測能力と、実行面の処理能力を分けて確認する
予測モデルの精度と、リフォーム・引き渡しなど実際の処理能力(オペレーションの制約)は別の課題であり、どちらか一方だけを見て事業拡大の妥当性を判断しない。 - 事業規模の拡大が、抱えるリスクの規模をどう変えるかを確認する
同じ予測誤差でも、事業規模が大きくなるほど、生じる損失の絶対額も大きくなることを踏まえて拡大ペースを判断する。
出典・本事例について
本事例は、Zillow Groupが2021年11月2日に提出したForm 8-K(Q3 2021 Shareholder Letter)およびForm 10-Q(2021年第3四半期報告書)の記載にもとづき、失敗にまなぶ.com編集部が再構成しました。iBuyingの仕組みについては、一般的な説明を編集部が補足しています。
参考資料:
- Zillow Group, Form 8-K, Exhibit 99.3 “Q3 2021 Shareholder Letter” (November 2, 2021)
- Zillow Group, Form 10-Q for the quarterly period ended September 30, 2021 (filed November 2, 2021)
同社の予測モデルの技術的な詳細、個別の住宅取引ごとの損益については、本事例の公表情報だけでは確認できません。Zillow Group全体の経営判断の適否については評価していません。
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